愛と風、100円のレコードに秘められた恋の痕跡。それは70年代のメロディーだった。

思い出とともに

神戸三宮の高架下商店街、今はピアザ神戸と言うそうだが、久しぶりにぶらぶら歩いた。三宮から元町まで、昔ながらの狭い通路の幅は変わらない。元町に近づいた所に、小さくて商品がぎっしり詰まった中古雑貨屋があった。棚の商品はきれいに陳列され、店主の戦略が感じられる一方、店の前の地べたには粗末なカゴに入れられた中古レコードが。

こういう店のレコードは狙い目だ。専門知識のない店主が、相場とは無関係な独断で値段をつけていることが多いからだ。しゃがみ込んで、カゴの中のシングル盤を一枚ずつ見ていく。30枚ほどの中から、「これだ」と思う一枚を見つけた。こういう時の迷いは禁物。買わずに後悔するより、買って後悔、これが鉄則だ。税込100円。満足げにほくそ笑みながら、僕は晩飯を予約している店へと向かった。

今夜の店は、恋川筋とサンセット通りの交差点から少し入った裏通りにある、ハワイアンテイストの小さな個人店。オリジナリティー溢れる手作りのメニューからディナーセット(サラダ、メイン、スイーツ)を頼み、メインはロコモコ、スイーツはブラウニーショコラを選んだ。

料理を待つ間、先ほど買ったレコードをテーブルに置く。BUZZの「愛と風のように」、1972年発売、あの有名なケンとメリーのスカイラインのCMソングだ。レコード盤はきれいだったが、音は針を落とすまでわからない。次に、紙ジャケットをじっくり見る。バズの二人と犬の写真。この犬をGoogleレンズで調べると、ボルゾイと出た。「へえ、この時代にボルゾイとは珍しい」と、僕が子供だった頃の飼い犬事情を思い出す。当時はまだ、家の中で犬を飼うことは稀だった。

そんなことを考えていると、視線はレコードを入れる紙袋に吸い寄せられた。「ん?なんだこれは?」印刷ではなく、そこには「れいこ&けんいち」と手書きの名前。しかも、その名前の上に、グジャグジャと曲線で消し跡がある。

ここで僕の思考回路に電気が走った。「れいこ」と「けんいち」の関係は?なぜ、わざわざグジャグジャ曲線で消したのか?名前を書いたボールペンと、消し跡のボールペンでは、インクの色と線の幅が違う。筆圧も異なっている。つまり、名前と消し跡の間には「時間」が存在し、書き手が違う可能性がある。ひょっとして、B面の曲名「悲しい歌はもう歌わない」にも、何らかの意味が込められているのだろうか?

100円の中古レコードに思わぬおまけ—A面とB面、そして紙袋に包まれた、誰かのラブストーリーの痕跡が、僕のディナーをより味わい深いものにした。さて、ロコモコが運ばれてきたぞ。

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