短編

短編

記憶を呼び戻すには

左足の薬指が痛い。左足の薬指の先っちょが痛い。なぜ痛いのか記憶を辿る。ああそうだ。重いものを両手で持って足元が見えないまま運んだ時に床にあった硬くて重い物に左足の薬指をぶつけたんだ。なんで重い物を運んでたんだろう。ああそうだ。広いスペースを...
短編

下駄と仏壇とお墓が消える時

昭和が始まった日に生まれた勇造が志したのは塗師(ぬし)。 塗師とは漆芸家や職工として漆を塗ることを生業とする人のことである。 勇造は塗下駄の仕事に就いた。漆との格闘は大変だったが面白くもあった。が、時代は戦争に突入し勇造も徴兵され戦地に駆り...
映画

ミニシアターに観に来る人は映画通ばかりではありません。

ここはミニシアター。前宣伝をバンバン打ついわゆる巷で評判の映画を上映するのではなく、国籍やジャンルを問わず質の高い作品を上映するこじんまりとした映画館。予約していた前から五列目の中央の席に座る。館内は照明が照らされ予告のムービーもまだ始まっ...
短編

いつも決まって赤信号で待たされたあの交差点の思い出

わずかな時間に交わす目と目のコミュニケーションは言葉より直接的だ。